『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『空想科学日本昔話読本』


『空想科学日本昔話読本
   柳田理科雄著 扶桑社文庫』

平安本ではなく日本昔話ですが、とても面白い本なので紹介。

「浦島太郎」では、魚の国の姫君が仇敵たる漁師を招待した真意を検証し、「わらしべ長者」では、1本のワラを何百億倍もの価値のある資産(屋敷と田畑)に変えた要因を考え、かさ地蔵の雪中歩行を科学的に想像。
空想科学というよりは、マンガに近い感覚で読め、最初のページから最後のページまで笑えます。

浦島太郎が竜宮城に携えて行った釣竿は、太郎にとっては大事な商売道具でも、魚の国の住民からすれば同胞の命を数多く奪った殺戮凶器。乙姫様がなぜ「恨み骨髄までしみた釣竿」を持った太郎を血祭りにあげなかったのか。
幼い時から刷り込まれ、何の違和感も持たなかった文章も、視点を変えて考えるととてもおもしろい疑問がわきあがります。

因幡の白兎」で、隠岐の島の対岸は出雲国なのに、(兎がたどり着いたと言われる)白兎海岸が90㎞も東に進んだ因幡国にあるのは、前へ前へと常に泳いでなければ窒息してしまうサメたちが移動橋梁シャークブリッジを作ったからだ、と斬新な発想を披露し、本気で感心しました。
因幡国隠岐の島の対岸にない問題については、この昔話を読んだ人ならたいてい疑問に感じるポイント(だと思ってる)。古代人は止まると窒息するサメがいるなんて知らなかっただろうし、対馬海流の流れに乗れば自然と東に流れることは経験的に知っていただろうから、たどり着くのは白兎海岸あたりが無難な場所だと設定した…と私は考えているのですが、そのへん実際どうなんだろう。

正しいかどうかはともかく、サメの生態説とか対馬海流説とか、いろいろ妄想するだけでも楽しくなる本。オススメです。