『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『感情を出せない源氏の人びと』


『感情を出せない源氏の人びと
  大塚ひかり著 毎日新聞社¥1600』

古典文学に見られる日本人の感情表現の歴史を、源氏以前-源氏-源氏以後と、ざっくり三部にわけて紹介。
日本人はいつから、そして何故感情をあらわにしないのを理想とするようになったかを問いかけた本。

人さまにどう見られているかを基本に、上流貴族の女性たちは、
『例え自室であろうとも、几帳の向こうはもう世間さま』
を肝に命じて日々暮らしています。セレブな方々は一挙一動が注目の的。もちろん、腹心ヅラしている女房の前でだってゆるい姿をさらせません。だって、ささいな事でも噂となってすぐに広まるから。
性悪な叔母が姪に仕え、兄弟同士が政敵になる狭い世界。ちょっとでも油断すると、陰口が広まって容赦なく「仲間はずれ」になってしまうとか。

そんな「仲間はずれ」状態にならないように、皆本当の感情を押し隠して、その場の状況にふさわしい『泣き仮面』『微笑み仮面』を素顔の上に貼り付かせるとはホント健康に悪い。
感情を抑制させられた続けた果てに、ストレスで本当に命を縮めてしまったり、精神に異常をきたしたり、あるいは物の怪が生まれたり。その過程を読んでいると、読んでるこっちまで自分のどてっ腹に穴が開きそうな気がしてきます。
なぜそこまで世間体に固執したのか、そうまでして上流貴族たちが守ろうとしたものは何だったのか。著者の考察大変興味深く読めました。

あ、でもここに登場する世間体が命!な人たちは、あくまで中上流階級の貴族さま。よく笑いよく怒る下流貴族および庶民ごときには、すがすがしいほど関係ないのでした。