『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『なまみこ物語』

 


『なまみこ物語 円地文子
       新潮文庫¥320』

古本屋で入手。そのときの感激ったらもう。

昭和47年初版、昭和63年23刷となってます。表紙の色がすっかり色あせて、香色というか練色というか、そんな色に赤い芥子の花がボタニカルアート調に描かれています。いい感じにレトロな雰囲気。

裏表紙はコレ↓(載せてもいいと思うけど…)


作者が40年以上も前に読んだ、「生神子(なまみこ)物語」の記憶を再現するという形式で書き進められています。
道長が、自分の娘彰子を入内させるにあたって、最大の敵だった定子を追い払うためにいかなる陰湿な策略がくりひろげられたかが描かれてますが、道長が表立って何かをしたわけでなく、権力者道長に群がる人々が、道長の望みを察して動く、という筋立てです。おそろしい。

巫女に憑く「物の怪」を利用していくのですが、道長は指一本動かしていないのに、周囲が道長の思うとおりに動いていくし、だからこそ策略がバレても道長自身は全然キズつかず、周囲の人間が罰せられる。今風に例えれば、超大物政治家の泥をかぶって、闇の中に消されていく秘書役たちの話と言えばいいでしょうか。

あとがきを読むまで、「なまみこ物語」なる古典が本当に存在すると思ってました。「幼い時に読んだきりの話を覚えてるなんてスゴイ!」と。
草子地の、円地文子氏自身の語りが淡々としてて心地良いです。

併録の「歌のふるさと」は、伊勢物語のいくつかの段を訳したもの。学者の直訳とは次元の違う、素朴で美しい文章に心からひたれます。
とりわけしみじみしたのが有名な”狩りの使い”。斎宮が「男」の寝所に出向いたのは、斎宮の身にのり移った大神(女神)が、歌と恋よりほかに生きる道のない「男」をとりわけあわれに思ったから…という設定。
この訳にすごく感動しました。
わずかな文章に、いろんな情報を詰め込む筆力。
斎宮とはなんぞや。
在原業平の当時の朝廷での立場は…などなど。

別格の平安王朝小説本です。さらっと読みやすいのに深い。
古本屋でもネットでも見かけたらぜひゲットを。