『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『海の怪』


『海の怪 鈴木光司著 集英社 ¥1200』

海大好きでヨットも所有する著者が実際に体験した不思議エッセイ。
怪は怪でも海底に霊が漂っていて…みたいな話ではなく、「板子一枚下は地獄」の恐ろしさが全編にわたって感じられます。

自分も漁師町育ちなので共感できる話が多く、第1話「海の墜ちる」で、穏やかな海と油断してデッキで独りでいることがどれほど危険なことか、海中で助けてと叫んでも誰にも気づいてもらえない絶望感とか、全話通してこの第一話の最初の5ページ目くらいまでが一番心に残りました。
第12話「いかだに乗って」もそう。波をこいで歩いてる時の、足裏にあたる砂地に妙な違和感を感じる瞬間とか。海の町育ちの人なら、自身の見聞きした具体的にいやな話がきっと思い起こされるはず。
第13話「エイトノットの奇跡」第14話「吠える60度線」は冒険譚の色が濃く迫力満点。あえて実話怪談らしい怪談を挙げるとすれば第17話「こっちへおいで」くらいか。でも遭難者を捜索する警察潜水隊のすさまじいほどの御苦労を読んでると、怪談なんてどうでもいい些末事に思えました。

怪談ってこんなんじゃないという意見もあるかもしれませんが、生死の分け目がリアルに感じられる話ばかりで面白かったです。