『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『紫式部の恋』読みました


紫式部の恋 近藤富枝著 河出文庫¥780』

紫式部の推し活始めて数十年、おはようからおやすみまで彼女の暮らしを見つめ続けて数十年。それくらい紫式部の人となりに言及した濃厚な内容です。

大学教授でゴリゴリの古典文学研究者かと思いきや、文部省からNHKアナウンサーという経歴の方だったとは驚き。驚きというより納得の方が近いか。この「紫式部の恋」という本、たいへん膨大な知識の持ち主の著者が、源氏物語が好きな初心者の誰にでもわかりやすいかみ砕いた文章で、まるで話し言葉を読んでいるかのように読み手にスッと入ってくるのです。
老若男女の誰もが理解できる情報の伝え方を知っている、熟練したアナウンサーならではの柔らかで丁寧な文章だと思いました。


幼いころに母を亡くした式部が、周囲に子守りされつつ女の童として行儀見習いするにはどこが安心で適当か、と父親の為時が考えたとき、為時が家司をしていた具平親王邸に幼女式部を預けたのではないか。
ここから推理はどんどん広がってゆく。
親王の学問を見聞きし、日常の遊び相手になり、やがて親王への尊敬と恋心を抱く若い式部。
怜悧な彼女が、藤原一族の専横による国の乱れをこの親王グループが嘆いているのを見続けた結果、持ち前の文才と膨大な学識で「源氏物語」を書き始めた。


式部が源氏物語を書くに至った動機を著者はこのように推理しています。
具平親王への恋の根拠を、紫式部日記源氏物語の随所を引用して推理しまくっているのが自由過ぎて大変面白いです。説が独創性高すぎて少々ひく所もありますが、源氏物語っていろんな角度からいろんな考え方で語れるんだなあと改めて思った次第です。

式部を中心とする物語共同制作グループがあったとして、メンバーたちの採用されなかった作品、読みたかった。式部自身が書いて「ボツ!」と自ら反古紙にした作品もあったはず。これも読みたかった。どっかの蔵に残ってないかな。

式部ら物語制作メンバーの影のリーダーが具平親王だったとして、背後で批評したり新しいネタを提供していたのなら、式部は源氏物語を書き終えたとき、その功績をすっごくほめて欲しかっただろうなと思います。物語完成したときには具平親王は亡くなっているんだけど、魂をこめて作った物語を敬愛する親王にたたえられ、ねぎらってもらえたとしたら、親王の言葉を胸にしまった式部は一生幸福な気持で過ごせたでしょうね。
いやしかし知識と推量に圧倒される本だったわ!