『時平の桜、菅公の梅 奥山景布子著
中公文庫 ¥724』
男ふたりが表紙の平安小説とは珍しい!と思わず手にした本。
しかも片方は見目麗しくないおっちゃんだ(←菅公)。
中もざっと見たところ雪月花も涙も恋愛もなさそうだし。
実際、かなりがっしりした感の政治小説で、読みごたえ十分でした。
まず時平が主人公てのが珍しい。読んでる途中であわてて『大鏡』読み返したけど、道真サイドの話が多く、時平氏やはり若干悪役のイメージがあるんですが、本書での時平氏は情にあつくて大局的な物の見方ができ、かつ諸卿の支持も十分な、一族の長者にふさわしい器の人。道真の才気を認め、共に前に進もうとする、こんな魅力的な時平氏の描き方もあったんだーとちょっとびっくりしました。
登場する人物たちが二派(時平・天皇vs道真・上皇)に分かれ、互いが互いをどんどん警戒していくさまも面白かったし、宇多上皇がかなりのくせ者に描かれているのも新鮮。道真が宇多にすり寄ったのか宇多が道真を篭絡しようとしたのか、物事が自分たちの目指そうとするところからどんどん離れていく時平たちの不安な心情が丁寧に描かれているのもよかった。
『土佐日記』の紀貫之とは違うひょうきんな貫之氏がとても魅力的。貫之氏が登場すると清涼感さえ感じました。