『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『いまどきの死体』


『いまどきの死体 西尾元著 幻冬舎 ¥1200』

3000体を法医解剖したプロが明かす、幸せな死に方とは。

実話怪談系かなと思い購入しましたが、そうじゃなかったです。が、非常に重く厳しく身のすくむような実例と著者の所感がつづられており、多くの人に読んでもらいたい一冊だと思いました。

読み始めてまず、
「やばいこれ。好きな実話怪談本がつまらなく思える。どうしよう」
と思いました。あまりにも凄絶な著者の業務内容(と言っていいのか)が丹念に、かつ平易に書かれています。もちろん専門用語もたくさんですが、おそらく小学生高学年くらいなら理解できるような、著者のやさしいお人柄が浮き上がって見える文章です。
凄絶な解剖例と平易な文章って相反するかんじですが、なぜかその二つが違和感なく馴染んだ文章。
テレビのドラマで見るきれいな遺体の解剖なんてほぼ無。遺体からの感染症をひたすら防護し、いわゆる汚グロとの闘い。解剖医ってバケツ何杯分かのぐっちゃぐちゃの骨と身と臓物を「これ一人分だから。合わせといて」ってもし神様に頼まれたら、3Dのジグソーパズルのピースを当てはめるように完璧に合わせるんじゃないかな。この肋骨の傷は死ぬ前にできた傷、この頭蓋骨の傷は死んだ後にどっかで打った傷とか記録しながら。
こんなプロ中のプロ、あまりお見かけしたことないってくらい圧倒されました。仕事に徹する姿勢もですが、メンタルやられてもなんら不思議じゃない本当にハードな業務で、どうやってブレずに心を保っていられるんだろうと思いました。
読んでて一番きつかったのは、乳児虐待の真相を判明するため、臓器を全部取り出し、折れた肋骨が再生しているのを確認、頭蓋骨を開けて乳児の眼球から出ている視神経を観察し死因を確定のくだり。
本当にタフな仕事です。日々ハードな仕事をされて、なぜこんなに心を強く保っていられるのか。
感情が頭を支配してしまうと、平静でいられないつらい作業になるのは明白。ひたすら黙々と解剖を続ける。遺体から得られる事実をありのままに記録して、
「突然やってくる死を未然に防ぐことはできないか」
生きている人のために役立つ医学情報を発信していくことができる、それが自分の使命であると著者は言っています。
頭の下がる思いで読みました。
サブタイトルの「法医学者が見た幸せな死に方」は読解力不足のためか最後までわからなかったけど、避けて通れないうえにいつやってくるかわからない「死」をさらに実感してしまったので、一日一日を大事にしたいと読む前より強く思っています。