『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『源氏物語五十五帖』

『源氏物語五十五帖 夏山かほる著
      日本経済新聞出版 ¥1600』

――源氏物語は未完だった。
――最期の一帖がどこかに秘されている――
父菅原孝標にかけられた殺人の濡れ衣を晴らすべく、その娘更科と紫式部の娘賢子が秘された最後の一帖を求めて、信濃国へと探索の旅に出るというとてもスリリングなストーリー。
道中、道長の四男の藤原能信が影になり日なたになりして、更科と賢子の女子二人旅を見守るんですが、この能信が、おまえはタキシード仮面か犬夜叉かーと突っ込みを入れたくなるくらいカッコいい役回り。そもそも女子二人が徒歩なり馬なりで信濃国まで往復すること自体が荒唐無稽。従者が次々脱落していくし。でも話の展開がスピーディだから気にしない(嘘)。ライトノベル感覚で楽しく読めました。
格下の身分の者を軽んじている道長と、非常にクセが強い脩子内親王がとても哀れ。特に定子中宮の娘の脩子内親王は、ここまで過激な妄執に取り憑かれたキャラで描かれている小説は見た記憶がありません。
ラストの章で、真実のほぼ全てを知っていて墓まで持っていくつもりだった行成卿と更科の語らいがとてもよかったです。発見された最後の一帖の真贋を、紫式部のかつての朋輩女房が判定するのですが、この最古参女房常磐の胸の内をもう少し吐露して欲しかったと思います。