『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『人物叢書・一条天皇』



人物叢書 一条天皇 吉川弘文館¥1500』


人物叢書らしい読み応え満点の、非常に骨太な内容です。自分のような素人にとっては、難解なワードがてんこもりな本で、漢文や引用文の読み下しや訳もほとんどなく、「これをいちいち著者が訳さなくても理解できる読み手、もしくは自分で訳してみようと辞典をひもとける読み手が、この本のターゲットではないか」と思ってしまいます。
要は、ダラ読みなんかせずに意欲のある人用ってことかも。

読み終わってわかったことと言えば、
1.行成は年がら年中忙しかったらしい。
2.行成はきっとAB型に違いない。
3.道長はとにかく勤仕をさぼりまくっていた。
4.触穢はすごく都合のいいものだった。
5.平安とは、見える所以外は見ないようにする事。
6.小右記がなかったらこの時代わからない事だらけ。

とまあ、こんな具合で18くらいまで続きそうです。
自分としては、5に一番興味がありました。贅沢禁止令もひんぱんに出されたこの時代。上級貴族以外の貧窮問題とか、毎年台風などの災害が必ず起きるのに、被害を減らそうと努力しないとか、市中の病人死人の放置とか、そういった社会の構造問題をひっくるめた5がツボでした。
事実を淡々とつづっていく書き方もとてもわかりやすく、最後の最後、結びの段で、それまでなかった著者のまとまった私見があって、ここは本当に本当に考えさせられました。自分なりに要約すると、

藤原氏を頂点に導いた道長にすべてを収束させることに腐心した物語や伝説、逸話は数多くあるが、そこに到る過程を半分ねつ造しているものも多い。だが、どの人物もその時その時を必死で生き抜こうとしていたのであり云々…』
 
常にニュートラルな視点を忘れないで、歴史事実をとらえていこう(こんな軽々しい文章じゃなかったです!)という意見には、こうべを垂れるものがありました。
一条天皇の魂が慟哭している、ラスト数行にも泣かされました。