『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『中世の葬送・墓制』


『中世の葬送・墓制 水藤真著
      吉川弘文館¥1900』

この間読んだ『死者のゆくえ(佐藤弘夫著)』に引き続き、中世の葬送についての本です。

平安時代前後に関して『死者のゆくえ』では、

天皇・高級貴族・高僧以外は遺体には無関心、死者への法要などの世間的体面を保つことには関心はあっても、遺体は放置後どうなろうと興味なかったようである」

との主旨を読み取ったのですが、こっちの本では、

「そもそも葬送の方式が各時代それぞれにおいて単一無二などということは決してないのであって、むしろ複数の葬送方式が同時に絡み合いながら存在する、という考え方のほうが自然である」

とあります。高級貴族から一般庶民まで、それぞれの階級がその時その時の家の状況に応じた葬送を行っており、いろいろな形で死者を葬ってきたのです。
ごく普通の貴族でも、故人の遺言を守りつつ、入棺・埋葬・その間の弔問客への応対・仏事始の読経などなど、四十九日の間はそれぞれの家の財力に応じて何らかの形で供養をしているようです。

死は穢れ。出来るだけ遠くに葬ることもあれば、その穢れを忌むことなく近く(屋敷の敷地内とか)に葬ることもあったし、手あつく葬ることもあれば、ほとんど死体遺棄のかたちの葬り方もあり…と実にさまざま。
そもそも『葬る』の概念からして現代人と古代人では違うようで、現代人の我々から見れば「ほぼ死体遺棄」というやりかたでさえ、古代人にとっては「野棄て」という葬り方のひとつだった、といいます。

この本でも当然のように餓鬼草子をさらに詳しく紹介しています。


遺体を埋葬してできた土塚に樹木を植えたもの。
その土塚に石や卒塔婆を立てたもの。
土塚に仏篭や卒塔婆を立て、小さな板(釘貫)で囲み野犬に荒らされないようにしたもの。
土塚に石塔を設置、大きく柵(釘貫)で囲み、墓域を強調したもの。

などなど、土まんじゅうも、家の財力に応じたクラス分けができているのがわかります。そう言えば子どもの頃に飼ってた金魚が死んで、土に埋めてできた土まんじゅうの上に花のタネを植えて咲かせたのを思い出した。土塚の樹木植えってそういう気持ちからくる風習なのかもしれません。

さらに、土に埋葬することさえ出来ずのいわゆる「野棄て」。
それぞれの財力に応じて、上は墓域を堀で囲むものから下は凄惨な遺体の散乱まで、絵師は荒涼とした墓地の風景を正確に描いています(もちろん餓鬼は現実の墓地の場面にはいません)。

『死者のゆくえ』はそのタイトルどおり、日本人の死生観の話で、こちらの本は引用文もたいへん多く、死者の扱いをより現実的に追った感があります。

各時代の思想の大きな流れは『死者のゆくえ』で、現場の具体的な事例や実態は『中世の葬送・墓制』で読み分けられるんじゃないかなと思います。こちらの本は引用多くて現実的でした。
ただムシロに遺体をいれるだけの一般庶民の安い葬送あり、自分の葬儀のために家を売却してと哀れな遺言する貴族あり、葬式に金がかかるのはどの時代も同じなようです。