『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『再生ボタン』


『再生ボタン 福澤徹三著 幻冬社文庫¥533』

短編10話。「怖がらせたる!」気まんまんな心霊話ではなく、奇妙で曖昧でじわじわと不気味で、首を傾げたくなるような後味の話が多いです。社会で色んな不条理な場面を見聞きしてきた経験をうかがわせる筆力で、好きな作家さんの一人。

捻って捻って、さらにもうひと捻りしたようなストーリー「お迎え」がスキ。最後の178ページから179ページの間のわずか4行ほど、クラクラするようなどんでん返しが。著者が幼少期に父親の実家で見聞きしたという実話「釘」もスキ。手のつけられない悪い因縁を感じさせる実話です。

著者の書く怪談本は、あくまでも「奇妙でまがまがしく腑に落ちない」話が多いです。決して幽霊をチラつかせて、あるいは前面に出して怖がらせるというスタイルじゃないような印象です。そこが物足りないと不満に思うか、かえって凄みやストーリーの底深さをゾクゾクと感じるか。
このあたりが好き嫌いの分かれ目かも。