『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『不味い!』


『不味い! 小泉武夫著 新潮文庫 ¥400』

昨日の毎日新聞に、『カラス肉、フランス料理に登場』という記事がありました。

農作物を食い荒らすカラスの駆除に毎年一億円もの費用をかけている長野県。
駆除したカラスは焼却処分なのですが、その処分行きのカラス肉をフランス料理に仕立ててみたら意外と美味しくて、ジビエ(野鳥獣肉)料理として普及させようという記事です。

この記事をみて思い出したのが、この『不味い!』という本。

この本では、ジェラルミン製胃袋の持ち主で喰えないものはないと自称する小泉氏が、あまりの不味さに悔し泣きしながら喰った料理の数々を紹介しています。その中に、「カラスの肉」という一話があるのです。

地元の猟師のオヤジさんが「とにかく肉が臭くて、それがいつまでも頭の中に残る臭さ」と評するのを、あえて頼み込んだ小泉氏。オヤジさんが臭みを取ろうと一生懸命奮闘してくれた、そのカラス肉「ろうそく焼き」は予想のはるか上を行く不味さ。けど、オヤジさんが「不味い」と警告してくれてるのをムリに頼み込み、あげくに作ってもらった以上、吐きそうになりながら喰いきったという話です。

毎日新聞の記事の方は、「砂肝のような食感で野性味もあってうまみもあり、赤ワインに合いそう」な味だそうです。
小泉氏が食したカラスは種類不明ですが、フランス料理に使ってるのはハシボソカラス。ハシブトカラスに比べて、ハシボソカラスの方が植物性の物を好むそうですが、どっちにしたって雑食性、腐ったモノまで何でも喰うカラスの肉が美味しく変身するなんてちょっと食べてみたい。
食べるためにわざわざ「穀物やどんぐりだけで育てた養殖カラス」じゃなくて、あくまでも焼却処分行きの廃物肉。それが食べられるレベルになってるんならぜひ一度食べてみたいです。

この本には他にも、「観光地のお膳」「不味い刺身」「不味いビール」「大阪のホテルの水」などなど、これでもかの不味い不味い31話が載っています。著者は醸造・発酵専門の農学博士で文章も科学的、しかも例えが的を得ていておもしろく、なんかもう一緒に同じ物を食べてるようなグエエな気分にさせられます。

蛇やら虫やらシュールストレミングは不味いイメージをはっきり持ってるからまだわかる。観光地のお膳や大阪の水のまずかった話など、自分の過去の思い出したくない記憶がごっそりと、しかもトートツによみがえってきてたまりません。

新社会人一年目は大阪市内の社員寮に居たのですが、寮で会社で日々飲む水の、あまりの不味さに、「せめて会社以外ではマトモな味の水が飲みたい」という理由で、金を貯めて奈良に引越したことを思い出し、大阪の水の味を鮮明に思い出し、「まずいの?みんなそう言うけど、生まれた時からずっと飲んでるからわからんわ」と言った同期の子の言葉を思い出した「大阪のホテルの水」の一話。
不味い味の記憶をムリヤリ掘り起こさせられる良書。山科けいすけの装丁も絶妙w