『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『王朝貴族のおまじない』


『王朝貴族のおまじない 繁田信一
   ビイングネットプレス ¥1600』

坂田靖子が挿し絵を担当してます。この人こういう仕事もするんや!とちょっとレア。描く狩衣姿や付喪神はすっとぼけのファンタジー系と言うか、マネできない味わい深さがあって心地いい。その挿し絵を点在させての繁田信一の小ネタ本。
タイトルどおり、平安時代のおまじないのハウツー本です。

こんな不吉を見たら、こんな不安を感じたらこの呪文!生活全般の「困ったこと」は呪文で解決。
ユニークな呪文もあって、

・脚がつったら『きゅうり』と唱える
ダジャレに由来するもので、きゅうりの「きゅう」はお灸の「きゅう」だとか。

・夜中に外出するときは、
 『八街(やちまた)や 守りや衢 わが子行く ゆめ八街やわが子死なすな』と唱える
衢は辻のこと。外出コースにあたる辻々の神さまに、身を守ってもらおうとした。

・死んだはずの人を見かけたら、
 『魂や難(かた)夜道われ行く 大路たら 千たら万たらに黄金散り散り』と唱える
その辺に黄金がいっぱい散らばってるぞー!と叫んでゾンビを惑わしてる間に逃げるw

各項目は、おまじないの所作→それらにまつわる王朝時代のエピソードを老尼が昔語り→著者コラムという仕立てになっています。小ネタ満載w

参考文献は『袋草紙』や『二中歴』がメイン。それらは読んだことないので、こんな時にはこのおまじない!は初めて知るものばかりで面白かったです。おまじないは和歌のようなかたちをとった呪文ばかり。
他にも、病人を見舞う時は「鬼」と掌に書く、偉い人に会うなら「天」と掌に書く、のような、現代の「人という字を掌に書いて飲むマネをする」のルーツ?がたくさん紹介されてます。

真夏の暑い京都の某寺を著者が調査中、千年生きてるかのような老尼と出会って話を聞くという『大鏡』スタイルの本。老尼の語り口調は面白く読めますが、前書き後書きに書かれた老尼との出会いの創作演出があまりにくどいし、千年前を知ってるバーサンを引き出すに至った経緯を言い訳してるくだりは完全にムダ。こんな小細工しなくても、「大宅世継の翁のヨメに語らせた風」で自然に流したらいいのに。とにかくあの前書き後書きはムダな言い訳でしかないと思いました。

 

王朝貴族のおまじない

王朝貴族のおまじない

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