『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『かぐや姫の結婚』

 


かぐや姫の結婚 繁田信一
     PHP研究所 ¥1400』

世に「かぐや姫」と呼ばれた姫君、藤原実資の娘・千古の生涯を辿りながら、平安王朝の姫君たちの実状を描く。知られざる史実が続々。(出版社公式HPより抜粋)

いいですねー平安時代のトップクラス貴族女子の縁談事情。結婚以後はともかく、縁談が持ち込まれ、結婚にこぎつけるまでの水面下のややこしい事情を、実資は頭を悩ませながら「小右記」につづったに違いない。超セレブには超セレブなりの悩みがあるんですねー。

しかし、この著者のおかしな文章でストンと読み手に伝わってきません。
大変失礼ながら、「イカれた文章だなーこりゃ」とちょっとだけ呆れました。
とにかくくどい。数行で済むところを似たような文章で何度も繰り返す。仮定がいつの間にか事実(でも思い込み)にすり替わっていて、そこから推論しているのもヘン。「もしかすると」を乱発していて著者さんてエンタ芸人どぶろっくが好きなのかしら。

氏の著書は「王朝貴族の悪だくみ」「殴り合う貴族たち」「庶民たちの平安京」「呪いの都 平安京」などなど大変に魅力的なタイトルが多く、ちょっとクセのある文章ながらもその独特の視点から愛読してきたのですが、こんなに回りくどくてもったいぶった文体じゃ途中で飽きちゃう人多いんじゃないかな。自分「王朝貴族のおまじない」みたいな文章も書けるし、この本みたいなこねくり回した文体も書けまっせ!って感じなのかしら。

「いろいろと冒険的な試みをしてるんですね」と好意的にとりたいのですが、あとがきも謎。源氏物語の葵の上と実資の娘をリンクさせたかったのかな。

実資が年老いてから授かった大事な大事な女の子・千古の溺愛ぶりを小右記大鏡などの文献からさぐり、政治に翻弄される名門貴族女子の縁談事情に迫る。このネタも発想もすごく面白いですが、「かぐや姫」と称された実資娘の人物像は結局わからずじまい。実資の親バカぶりは伝わっても、娘の性格や容貌・立ち居振る舞いなど、人間としての血と肉の部分が伝わって来なかったのが残念です。

かぐや姫」と呼ばれていた理由も何だかよくわからなかった。娘は後の世の人々から何不自由ない生活を送った幸い人の象徴として「かぐや姫」と称えられたわけじゃなく、当時からすでにそう呼ばれてたとか。
「小野の宮さんちのかぐや姫がこの間ね~」
こんな感じ?
自分の娘を「かぐや」と呼ばせて平気って何かちょっと恥ずかしい。現代でいうなら、小倉優子が「こりん星のりんごももか姫」と呼ばせていた、みたいな?
あんがい平安当時の人、
「こう言うと殿が喜ぶんだよね~かぐや姫(失笑)」
だったりして。