『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『千年の黙(しじま)』


『千年の黙(しじま) 森谷明子著 創元社推理文庫 ¥940』

帝ご寵愛の猫はどこへ消えた?出産のため宮中を退出する中宮定子に同行した猫は、清少納言が牛車に繋いでおいたにもかかわらず、いつの間にか消え失せていた。帝を慮り左大臣藤原道長は大捜索の指令を出すが(裏表紙内容紹介より)。

上記は第一部のあらすじ。枕草子の猫の話を思い浮かべるライトノベルっぽい平安ミステリーですが、この本の真価は第二部「かかやく日の宮」です。

源氏物語が千年もの間抱え続ける謎のひとつ、幻の巻『かかやく日の宮』。この巻はなぜ消え去ったのか?式部を通して著者が壮大な謎に挑む(扉ページ紹介文より)。

猫探しの第一部は正直ちょっとダラ読みでした。第二部への布石というか、式部の周辺の人間関係と人物紹介編と割り切って読みました。失礼ながら途中で飽きてしまい、読了にまあまあ時間がかかってしまいました。
ですが、第二部『かかやく日の宮』『雲隠』はあまりの面白さにもう一気読みでした。
本を読むことがとても楽しい、そして残りのページが減っていくのがさみしいなんて思うの本当に久しぶりでした。

藤原定家が自著の中で名のみ伝えている『かかやく日の宮』巻があるのではないか。そこには、源氏と藤壺の最初の密会、六条御息所とのなれそめ、朝顔姫宮との交渉などが描かれているのではないか。

その巻があったと仮定して、なぜ式部は欠落をそのままにしておいたのか。
という謎を出発点にしてこの話は始まっています。

著者のこの考察は可能性のひとつだとしても、もうこれがパーフェクトな答えだとしか思えません。散逸した理由の何もかもがしっくり収まるこの不思議。圧巻の内容です。
ハッピーエンドの結末ではないけれど、こういったバッドエンディングなら納得。ネタバレだけど小野宮実資の手元にある書写本のその後も気になる~。
この紫式部シリーズはあと2冊出てるようなので、実資が所持している書写本がシリーズのどこかで成仏していて欲しいです。


千年の黙(しじま)というタイトルも、物語のキモとなる大事な巻が散逸した理由が、千年後の今ようやく明かされるという暗示ですよね。出版社や各書店も、もっと第二部の内容紹介に力を入れたらいいのにと思う。