『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『紫式部すまいを語る』

 

紫式部すまいを語る 西和夫TOTO出版¥1800』

王朝文学を通して、平安時代の建築を建築史家が解説した本。
TOTO出版とか初めて知った。トイレットペーパー型の川柳集「トイレ川柳大賞」とかめちゃ欲しい。
王朝文学の随所に出てくる、日本人が古来より持っている住宅感や暮らし向きへの関心を、建築の専門家の視点で論理的に説明されてる本かと思いましたが、抒情的な、とても美しい文章を書かれる著者という印象が強く残りました。

そもそも神社仏閣でない「寝殿造」が現存せず、超上流セレブ住居仕様の平等院鳳凰堂などから外観を推測するしかないのですが、超上流貴族と中下流貴族の寝殿造が規模しつらえともに同じはずなく、現実的な生活感あふれる寝殿造の実情が知りたかったです。フィクションである源氏物語を建築のプロが読むと、こういう見方ができるのかという発見をもっと示して欲しかったですね。

本書で「今昔物語」の伊勢御息所の住居を、源氏物語絵巻に出てくる柏木や玉鬘の邸宅に例えてありました。建築の専門家が描く、現実の中下流貴族たちが住まっていたささやかな寝殿造って具体的にどんなだったのかな。伊勢御息所の住居を例に、大胆な私見が欲しかった。

寝殿や対の屋といった大空間を閉鎖空間(塗籠)と解放空間(母屋、庇、孫庇)に分け、解放空間は御簾や屏風であいまいに仕切る。この、建具ひとつで外にも内にもなるあいまいな小空間づくりを、日本人はたいそう好む傾向があるとか。その中であいまいな空間の代表、(孫)庇=軒下の重要性について、源氏物語「鈴虫」「東屋」を例にして論じている章段がとても興味深かったです。