『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『秘帖・源氏物語 翁』


『秘帖・源氏物語 翁 夢枕獏
        角川文庫¥590』

外法の陰陽師蘆屋道満と美貌の貴公子・光源氏の二人が、葵の上に取り憑いた妖しいものの正体をさぐる。初めは六条御息所の生霊かと思われたが、どうやらそれだけではないらしく…

あとがきを読むと、著者は源氏物語を全部読んだことがない様子。困った挙句に思いついたのが、大和和紀の『あさきゆめみし』。この少女マンガを最後まで読むことで、ようやく本書を書き出すことができたとか。

ということは、本書の登場人物のイメージは、あさきゆめみしのイメージで考えればいいんですか。本書でもだえ苦しんだり妖怪化して醜く高笑いする葵の上は、マンガの可憐でナイーブな葵の上ですか。本書で使いっ走りの格下扱いされてる印象の頭中将は、マンガの颯爽とした男前の頭中将ですか。違う、何か違う。
もちろん同人作家じゃなく一流のプロ作家さんなので自分流の『源氏』に昇華するのは当然なわけですが、この、

 ”少女マンガのおかげでこの小説書けました”

の一言はやめてほしかったなあとちょっとだけ思いました。いや読み手サイドの思い込みがね(以下略)、あさきゆめみしって平安時代好きにとってバイブルみたいなマンガだし(以下も略)。

源氏物語というよりは、むしろ源氏のキャラを使って『陰陽師』のスピンオフを書いてみました!主人公は蘆屋道満で!な本です。
道満&源氏コンビが、ミノタウロスの迷宮だのゴルディアスの結び目だのの神話の旅をするわけですが、ラストが壮大すぎてこっちの頭がついていけなかった、というのが正直な感想。それとあとがきで著者が「本書は傑作です。凄い話です」とぶち上げているのにもちょっとついていけなかった感が。
著者のファンにとっては、こういう後半どんどん話が壮大に広がるのが夢枕ワールドの魅力なのでしょうが、こちらの読解力不足でストーリーの上っ面しかわからなかったです。残念。

あ、でも装丁はすごく好み。酷薄そうな美貌、烏帽子に挿した飾り花、抜き身の刀、すらりとした背、指貫からのぞく沓、光る君にまとわりつく小鬼たち。
文字の配置や大きさまで、何から何までカッコイイですよ。