『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『黒本 平成怪談実録』


『黒本 平成怪談実録 福澤徹三著 新潮文庫 ¥362』

淡々と進む福澤文体が好きですが、今回は何の感情の高ぶりもなくあっさり読了してしまった。コロナウィルスによる自粛疲れで、読み手側の感覚が劣化してるせいだと思う。


福澤氏のまえがきは本当に面白い。氏が読者を笑かそうとして書いてるとは思えないが、笑かしにかかってきてるとしか思えない。特に『忌み談2』のまえがきは、ご本人はそのつもりは毛頭なくても、ノリノリで前作を述懐しているのを楽しく読ませていただいた。

今回もこの本の基本方針の説明は面白かった。が、本体には共感できるような怖い話がほとんどなかったのか残念。

そんな中で自分なりに面白かった箇所を挙げると、『N荘』がいかに憂鬱なつくりかとか、『鏡張りの部屋』のラブホの部屋がいかに不快なつくりかとか、読者をどんどんイヤーな気分に追い込んで行くあたりはやっぱ上手いなーと。
『百物語』もどうということない話だけど、参加者の中学生たちが次第に怖がり出して、先生がもう終わりにしようと言った途端に周囲のフスマがいっせいにバーンと倒れた、というところがすごく面白かった。
関西人ならこのくだりで、吉本新喜劇池乃めだかが「今日はこれぐらいにしといたるわ」と言った瞬間周囲の人が全員コケる、あのコケ芸を思い出すと思う。
コケ芸するフスマたちもある意味怪談か。