『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『いわくつき日本怪奇物件』


『いわくつき日本怪奇物件 福澤徹三
       ハルキホラー文庫¥600』

”本当に怪奇現象のあった”いわくつき不動産物件が多々紹介されている本。実話怪談好きなもので、大喜びで食いつきました。

淡々とした語り口調、大げささも主観的な文章もない、とても好みな文体ですが、著者が実際その現場に足を踏み入れて調査していないのが惜しい。まえがきに、
「言いわけがましく恐縮だが、そこらへんは大人の事情と言うもので、なにとぞ(以下略)」
時間的にも金銭的にも何かと苦しそうなまえがきにちょっと笑わされました。

幽霊話でダイレクトに怖い気分を味わいたい人より、不思議な土地・奇妙な建物の話が好きな人向けな本かも。

印象に残った話をいくつか紹介。
「崖下のキャンプ場」
カップルの幽霊が現れるキャンプ場。
高校生グループが「出る」といわれるキャンプ場に一泊して、予想どおりの恐怖体験をするわけですが、そこまではいいとして、問題はその体験に興味をもった同級生たち後続部隊。後日、面白半分に同級生たちが「オレたちも」と一泊し、やはり同じ目に遭い顔面蒼白で帰ってきます。なんでまったく同じやり方するんだろう。ふた手に分かれてちょっと離れた場所にテント張って、明るくなってから体験したことを検証し合ったらいいと思うが。あるいは携帯電話がもう広まってる時代なら、片方のテントでおかしな現象が始まったら、もう片方のテントに電話して、自分たちのテントの方を見てもらうとか。

「アイドルの写真」
古いアパートの自分の部屋の天袋の中に、アイドルの写真が貼ってあるのに気づいたMさん。何年か経って写真が消えていることに気づく。探しても見つからない。それどころか、はがれた跡すらない。そもそも、暗い天袋のなかで写真の顔がはっきり見えたのもおかしい…
こういうのが一番苦手。どこの家にもあるのに、めったに開ける事のない天袋の中からのぞく顔。しめたカーテンのわずかな隙間とか5センチほどだけ開いてる戸やドア、シャッターとか、そういうのを思い出させる話でした。

この話の最初の方で、天井に「雲」と墨書した半紙が貼られていたビルの話がありました。これは著者の体験で、後年その意味がわかったそうですが、当時はなんとも不気味だったとか。
これを読んで、10年ほど前自分が住んでた家の近くに、同じように「雲」と墨書した半紙を天井に貼っている一戸建ての家があったのを思い出しました。
天井、とは言っても、車庫の天井に貼ってるんですよね、その家。
その家の前を通るたびに「なんであんなところに貼ってるんだろう」と不思議に思ってたのを覚えています。
天井に「雲」と墨書した半紙を貼る意味も、今ネット検索してわかりましたが、車庫の天井に貼った意図がわかりません。ますます不思議です。
そんな思い出したくもない色々な記憶が呼び起こされた意味でも、この「アイドルの写真」という話はイヤーな話でした。

「ケイコさん」
毎日のようにパチンコ店にたむろするケイコさんというおばさん。一度大勝して以来すっかりギャンブル依存症になり、負け続けたあげくの果てに、その店の女子トイレで首を吊ったという話。それ以降、死んだはずのケイコさんがチョイチョイ女子トイレ付近に姿を見せるようになった。
Aさんという常連が大勝してて、興奮状態からちょっと冷静になってあたりを見回すと、さっきまで混み合っていた店内には誰一人おらずとても静か。ふと気がつくと左隣にケイコさんがしょんぼりと肩をおとしてうなだれている。こっちを見たらどうしようという恐怖におののいていた時、背後から知り合いの老婆にポンと肩を叩かれ我に返ると、ウソのように店内の喧騒がよみがえり、左隣には誰も居ず、自分はパチンコ台のガラスに頭をもたせかけて寝ていたという…

こういう、ふと気がつくとあたりには誰もおらず→なんやかやで恐怖の体験して→我に返るといつもの日常に~的な体験は、脳内の誤動作とでもいうようなケースが少なからずあるんじゃないでしょうか。

夜の電話ボックスで延々と長電話している女。自分も使いたいのにいつまでたっても終わりそうにないのに腹を立て、アパートに戻ってきたD君。そのときA君に、「おまえカラの電話ボックスの前で何してたん?」と聞かれ…(新耳袋・第三夜より)

虫取りに丘の向こうに出かけた小学生の頃のTさん。急に夜になったようになり、あたりは真っ暗。誰もいない住宅街を歩き回り、途方に暮れたTさんだったが、虫かごのセミがジジジッと鳴いた瞬間、耳栓を抜いたようにあたりに明るい喧騒が戻り、いつもの風景の住宅街をあわてて我が家に戻った。(怪談実話・黒い百物語より)

部活の帰り、クラブメイトたちと道を歩いていたら、いつしか自分はたった一人になっていて、色々と不気味な体験するんだけど、ハッと気がつくとクラブメイトたちと元どおり歩いてる。「あたし今なにしてた?」と聞くと、友だちは「えー何か黙ってうつむいて歩いてたんで、気分でも悪いんじゃないかと…」(出典忘れた)

何が言いたいかといいますと、「ハッと我にかえると元どおりの日常が」系の話は、超短時間の間、脳がたまたま錯覚しちゃって、五感から入る情報を誤変換して、おかしな幻覚をつくってしまい、端で眺める第三者からすると、その間本人は魂抜けたようにボーっとしてる状態だったとか寝てたとか、そう言った脳内の誤動作からくるものも少しはあるんじゃないか、ということです。自分の脳が作り出す異界を体験していることだってあるかも、ということです。
そうは言っても怖いものは怖い。たとえ脳の誤動作だと気持ちで理解してても、目の前で起きる怪現象は絶対怖い。そんなもの一生見なくてすみますように、神さまどうかひとつよろしくお願いします。