『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『病院で起こった不思議な出来事』


『病院で起こった不思議な出来事 南淵明宏著
   マキノ出版 ¥1300』

心臓外科の名医が体験した恐怖譚…かと思いきや、著者本人が怖い話を怖い話としてとらえていないのがユニーク。


著者の有する科学知識では説明できない体験と、年間200件超の手術風景での心のありようが混ぜこまれた文章で、普通の実話怪談本では味わえないようなちょっと敬虔な気持ちになってしまいました。

助かりたいという患者の気持ち、助かってほしいと心から願う家族の気持ち、持てる医療技術で全力で助けたいと治療する医師たち、関係者全員を支援する医療スタッフたち皆の意識が何かの拍子でつながった時、説明のつかない何らかの現象が起きるんじゃないだろうか。人の意識や記憶は脳のシナプスだけじゃなく他の神経細胞にも散らばっていて、それらがネットワークを形成し、他者とつながるきっかけを見つけたら、互いの意識は瞬時に結合するらしい。その時、『個』だけでは思いつきもできなかった、極限状況を乗り越える見えない力が降りてくる瞬間があるという著者の説は大変興味深く面白く読みました。

怨みを持った霊がどうだの因果応報がどうだのなんて話は一切ないので、病院の怪談としては期待外れ。しかし外科の現場で命をあずかる名医の不思議な出来事に対する見解は、死生観や患者の家族の立場などいろいろ考えさせられることも多かったです。