『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『忌み地 怪談社奇聞録』

『忌み地 福澤徹三著 講談社文庫 ¥600』

怪談社の糸柳氏と上間氏が全国各地のいわくつき物件を中心に取材し、執筆は福澤氏という本。
福澤氏は著書の前書きや後書きで「取材は徒労に終わることがとても多くて」とこぼしてばかりで、いやこのぼやき芸が面白くて好きなんですが、とにかく足で稼ぐしかないネタ集め(取材)をプロのお二人に任せて、ご自分はとうとう執筆だけに専念かーとややしょっぱい気持ちで読みました。
現場主義の糸柳氏と上間氏の取材プロセスが垣間見れたのが興味深かったです。日本全国どこでも足を運ぶフットワークの軽さにびっくりし、アポなし飛び込み営業的な一般人への取材姿勢にもびっくり。取材の仕方も丹念でスピーディで、忌み地・事故物件の周辺を徹底的に、かつ取材対象者に不審がられないようさりげなく聞き込みしているのがすごい。
「何をやってもうまくいかない場所」的な話が好きなので、『高田の婆ちゃん』までは俄然面白くてグワーッと一気読み。
中盤は普通の実話怪談ばかりでかなりダレましたが、『事故物件のマンション』あたりから再び『高田の婆ちゃん』に繋がるような形になったのも面白かった。
本のタイトル「忌み地」ってK市のことなん?それならいっそ、K市にまつわる怪異の連鎖についてまるまる一冊書き下ろしてくれたらいいのにと思いました。
小野不由美『残穢』が強烈に怖かったせいか、なんとなく二番煎じの趣もなくはないかなー残穢っぽく仕立ててない?と失礼な読後感も持ってしまった。残穢でもラストで福澤氏登場してたし。
実はこの本、怪異の事実を巧みに混ぜ込みながらの取材現場を再現した、新しいスタイルの創作怪談なんじゃないの?とちょっとだけ思ってしまいましたすみません。
K市の怪異の連鎖はすごくそそられる内容ばかりで楽しめました。欲を言えば中盤の話は別本でいいので、全編K市の怪異の事実で通して欲しかったです。