『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『水辺の怪談』

『水辺の怪談 つり人社出版部編 ¥1089』

一般人の釣りマニア18人が体験した怪談集。
一般人の投稿とは思えない素晴らしい文章で、恐ろしさがジワジワと伝わってきます。
出版にあたってもちろん校正かけてるでしょうが、プロの実話怪談作家に全くひけを取らない、体験者のそばでその現場を体験しているような、そんな気分で読み終わりました。

マニアの語る釣りの楽しさがとても具体的に描かれ、ウキウキ気分で満喫しまくっている釣りの最中での霊の目撃。「喜」と「怖」の振れ幅の大きさが恐怖を一層かきたててくれます。釣りの合間に河口の松の木の根元で仮眠した時の体験「磔の松の下で車に霊が乗り込む」、毎年なぜかこの町に死にに来る人がいるという奥多摩町の話「革靴で渓谷のヤマメを釣る男」などが特にイヤな話でした。

しかし話の怖さより恐れ入ったのは、釣りマニアな人たちのタフさ。
仕事終わり、釣り具と簡易食を持って車を走らせ、山深い渓谷に分け入り、それこそ一晩中岩場でひとりアマゴやヤマメ釣りに熱中する人。海岸から30mも沖に出た遠浅の海で、腰まで海水に浸かりながら午前0時から夜明けまで延々と釣り竿振りまくる人。そんな釣りマニアたちにクマやヘビより霊が怖いって言われても全然説得力ないし。真夜中の川釣り中、霊がたたずんでいても「イヤイヤ今引きグイグイきてるから後にして」って相手にしなさそう。
あと実話怪談で、深夜山の中にチラチラ謎の光がとかこんな所でこんな時間に人が居るなんて系の話の中には、気味悪さそっちのけで嬉々として釣りを楽しんでるマニアの目撃があるに違いないと確信しました。