『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『落窪物語』


落窪物語 氷室冴子
 21世紀版少年少女古典文学館3 講談社

図書館の子供向け本コーナーにありました。
何気に通り過ぎたときに見つけてビックリ。もう目がテンになるくらいビックリ。
落窪物語を訳されてたなんて知らなかったから。
亡くなられて2年半めに故氷室冴子さんの新刊に出会ったようで、なんかうれしいやら悲しいやら切ないやら。かなりウルっとした気分で即借り。

「落窪」は古典文学ファンならご存知でしょうからあらすじは割愛。
子供向けの本ですが、一般向けといってもゼンゼン問題ないです。むしろ現代語訳よりわかりやすい、氷室冴子さん独特の軽やかな文体。くるくると展開するストーリーにピッタリ。わくわくしながら読めました。

帯刀(たちはき)と阿漕(あこぎ)の活躍がとても生き生きと描かれてたのもよかったし、あとがきで著者が書いているように、継母の北の方の悪役ぶりがあっぱれ。
著者の氷室冴子さん、北の方をベタぼめしてるんですよ。目がさめるほどの悪役キャラで、年をとろうが出家しようが改心しない、どこまでもひがみっぽいキャラ継母北の方。氷室冴子さんは、こういったアクの強いクセのあるキャラが大好きそう。

有名な場面の一つ、大雨の夜、少将の君が落窪姫のもとへ歩いて通う途中、役人に不審がられて牛車の牛が落とした糞の上に突き飛ばされてしまうシーンから、

『当時の道路の端には牛の糞がてんこもり。それらをどうしてたんでしょうねえ。
 道路をきれいにする役人がいたのかしら。
 それともそれらを集めて畑の肥やしにするたくましい庶民がいたのかしら』

と回想されています。
もちろんこの本を手にするよい子たち向けの問題提起であって、ご本人は当時の汚物処理の事情をご存知であったと思いますが、「餓鬼草紙」や「病草紙」に見られるように、汚物の処理には「犬」が大活躍でした。もちろん肥料としても大事でしたが、霍乱(かくらん)で苦しんでいる女の庭先で、吐しゃ物や下痢便が落ちてくるのを今か今かと待っている犬が「病草紙」にあったような。餓鬼草紙で糞を食べてる霊界の餓鬼がしていることがそのまま犬の役目だったような。糞どころか死にかけの人間も喰ってたし。
というわけで当時の道路の清掃は、自然風化で消えていく以外では、犬が大活躍だったんです。


『今度機会があったらこの北の方を主人公にしてお話を描いてみたいと…』

あとがきの後半にはこんなことが書かれて泣きそう。
読みたかった、本当に読みたかったです。氷室版・落窪物語スピンオフ。