『鈴なり星』の雑記

こちらは『鈴なり星』の平安時代物語や創作小説以外のブログです

『営繕かるかや怪異譚』


『営繕かるかや怪異譚 小野不由美
       角川書店 ¥1500』


”この家には障(さわ)りがある”

↑なんという魅力的なオビの一文。
邪魔、悪い影響、具合の悪いこと。。。それを「障り」と言いますが、微妙なニュアンスですよね。表立って言えない、でも裏でイヤーな影響およぼしている、でも祟(たた)りほどではない。それが障り。
6つの短編から構成されています。どの話にも共通するのは、河口に位置する古い城下町で、身分にこだわる昔気質な年配者の住民、ちまちました街並み、海の臭いと川の臭いが常にただよう、どちらかというと閉塞感のある町という設定。

「祟り」みたいなおどろおどろしさはないけれど、どの話にも生活に支障をきたすような怪異がおきます。ここで霊能者や坊さんが登場して一発解決…ではなく、登場するのは地味なTシャツにジーンズという軽装の若い営繕屋さん。視える人ではないけれど、障りを障りでないように家を修繕してくれるお兄さんです。

開かずの間に誰かの魂が住んでるならもう少し心地よくしてあげてはどうかとか、死神みたいなモノが袋小路を徘徊してるなら擬似道路を作って家に入らないようにしてはどうかとか。困っている被害者さんの背中をちょっとだけ押してあげるような慎ましやかな態度で解決法を提案してくれます。こんな穏やかにしめくくられる怪談もあるんだ…としみじみしてしまいました。
個人的には「潮満ちの井戸」がよかった。汽水域の川の水に混じって海の底から無数の死がやって来る…この発想は怖いわ~。